メンタルヘルスの初期対応

従業員のメンタルヘルスの類型別の初期対応についてお話します。

ケース1 従業員が休職期間満了直前に復職可能の診断書を提出してきた

例えば、うつ病などになった従業員がおり、その従業員が休職期間満了の前日に復職可能と言う診断書を出してきたと言うケースです。

このように復職可能と言う診断書を休職期間の満了直前に出してくると言うケースは結構多いと思われます。

それに対して、会社としてどうしようか検討している間に、休職期間の満了を迎えてしまったとなると、そこで休職期間満了で復職になるという議論が出てきてしまう可能性があります。

ですので、休職期間の満了ギリギリに復職希望と診断書等が出てきた場合には、実際に復職させるかどうかの判断は主治医の先生から話を聞いたり、会社の産業医の先生に診てもらったり、そういった検討を踏まえて判断しなければならないと従業員の方に伝え、例えば1ヵ月間休職期間を延長するといった形で労働者の方の同意を取ることをお勧めしています。

しかしながら、労働者が休職期間の延長について、争ってくることも考えられます。

そもそも、そういった事態にならないようにするためには、例えば企業によって休職期間が1年・1年半と言うふうに定まっていると思われますので、会社として、休職の満了の2ヶ月前であるとか、遅くとも1ヵ月前の段階で、従業員の方に対し、「あなたの場合にはこのまま病気が治らない復職できないと言うことになると、●月●日で休職期間満了となります」と伝え、「もし復職できると言うことであれば、診断書を何日までに出してください」と言う話を事前にしておくと言うことが大事になります。

必要に応じて、休職中の従業員本人に会い、今現在の状況であるとかそういった部分について説明を求めておくことで、直前になっていきなり、そういった話が出てくるのを防ぐと言う対応することが大事になってきます。

ケース2 休職期間中に従業員から労災申請がなされた

精神疾患にかかった従業員が欠勤、休職等を経て、私傷病休暇に入ったケースにおいて、休職期間中に、従業員が、「このうつ病になったのは上司のパワハラや長時間労働が原因である」と主張し、労災申請をしてくると言うケースが最近増えています。この労災申請がされて仮に労災認定されたらどうなるでしょうか

私傷病期間満了での退職となる取り扱いができなくなります

すなわち、いわゆる休職と言うのは解雇の猶予の措置と言うことで多くの場合は最初に例えば欠勤1ヵ月・3ヶ月で、それから休職期間に入り、6ヶ月の間に治らなければ、自動的に退職となる取り扱いです(なお、治らなければそのまま自動的に解雇と言う規定になっているケースもありますが、基本的には退職です。)。

あくまで、これは、私傷病すなわち業務とは関係ない自分の病気の場合です。

そのため、実は労災業務上災害によって、うつ病にかかって休んでいると言うことになった場合には、労基法上の解雇の制限により、労災期間中の解雇はできないことになります。裁判では、それを類推適用します、

私傷病期間中の労災申請に限らず、例えば退職した後に労災申請をして労災認定されたとすると、その病気の原因は私傷病ではなくて、労災による休業になりますので解雇できないことになります。

私傷病休職の場合、基本退職ですが、ほぼ解雇と同じではないかと言うことで、上記内容を類推適用されます。

傷病休職で従業員がやめたと思ったら、その後、その従業員が労災申請して、労災認定されたら、従業員としての身分が戻ってきます。会社としてはそれは結構怖いです。

もちろん、会社としては、最初に私傷病と言ったじゃないか、にもかかわらず、後から労災と言うのは通らないではないのかと言う疑問もあるかと思いますが、実際に通る例があるので注意してください。

以上述べた通り、私傷病休職の時に、労災申請され労災が認定されてしまうと、上記のような事態を招きかねません

労災を認定するのは労基署であり、会社ではありませんから、労基署に適正に判断してもらう必要があります。

一般に、労災申請する場合には、5号様式の療養の給付請求書を提出することが多いと思われます。

労災申請のときには、事業主が事業主証明をすることになります。この事業主証明というのは、一応義務となっています。

療養の給付請求書には、「災害の原因及び発生状況」という欄があり、労働者は、この欄に、例えば、上司からいろいろパワハラをされた、何月何日こういうことを言われた、といった記載をしてきます。

こういった内容が書かれたものに対し、事業主の証明として、簡単にハンコを押して出してしまうと、会社はここに書かれた事実を認めたことになり、事実を証明したことになってしまいます。

会社として、書かれていることが事実でないのであれば、例えば「この部分については認める」「他方、この部分からこの部分については会社としてはわからない」もしくは「実際にあった事実はこうです」といった形で、最初の段階で別紙をつけてやるべきです。合わせて、意見の申し出と言う形で、会社としての見解をしっかり述べておかないと、労基署に誤解されることになります。

事実を認めてしまった場合、労基署は、会社が事実を認めているから、後は、病気がそれによるものかどうかと言う因果関係の部分を判断すればいい、と言う話になってしまいます。

私傷病休職期間中に労災の申請があった時には、事業主証明には慎重になったうえで、しっかり証明できる部分を確定して、証明できない部分については会社の把握している事実はこうですというのをしっかり書いて労基署に出すということが、初期対応として大事になってきます。

 

労災認定がされることによって、従業員の身分が戻ってきてしまうと言うことを防ぐために、会社としてきちんと対応すべきことはしておくべきです。

労基署から、事実関係の調査のために資料提出の要請があれば、それに応じる一方、しっかりと、ここでも会社として把握している事実をどう証明するか、と言う観点で、労基署から言われた資料だけを出すのではなく、会社として積極的に、こういった資料もありますということも合わせて出しておくべきです

この部分の手を抜いてしまったがために労災認定されてしまう事は避けなければなりません。

労災認定は、会社が異議申立てはできませんから、会社としてできることはして、労働基準監督所にその判断をきちんとしてもらう、そのために必要な資料は提供する、きちんと言うべきことを言う、そういったことで企業のリスクを減らしていく必要があります。

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