本案訴訟,労働審判,仮処分への対応
1 本案訴訟
労働者の方から訴訟を起こされた場合,裁判所から,「第1回口頭弁論期日呼出状」及び「答弁書催告状」と合わせて,原告(労働者)が提出した訴状と証拠が特別送達で送られてきます。上記書類には,1回目の裁判の日時と法廷番号,答弁書の提出期限が書かれています。後に解説する労働審判,仮処分に比べると,スピードは遅いです。
この答弁書を提出しないと,被告側の敗訴となってしまいます。使用者側の答弁書の内容は,場合によっては三行答弁(原告の請求を棄却する,訴訟費用は原告の負担とする,具体的な認否と反論については追って準備書面で主張します)にすることもあります。時間がない場合はこの形で答弁書を出すこともあります。
私の場合は,三行答弁ということもありますが,答弁と訴状に対する認否と反論という部分だけは記載して,会社の積極的な主張(解雇理由,パワハラに該当しないこと,残業代が発生しないこと等)については後日,という形にして,その以前の部分については書くということも多いです。
民事裁判については,どんどん早くなったと言われますが,それでも,一つの事件で,一審だけでも大体1年はかかります。事案によっては,一審だけで3年ということもあります。
訴訟を起こされた場合又は起こす場合,訴訟については弁護士しか代理権限がないので,弁護士に依頼することになります。顧問の弁護士がいればそこは特段問題ないでしょうが。顧問の弁護士がいなくても,第1回期日までに依頼する弁護士が決まれば,それほど大きな問題にはなりにくいと思われます。
2 労働審判
労働審判が起こされた場合,裁判所から労働審判手続き期日呼出状及び答弁書催告状が届きます。
労働審判の場合,申立てから40日以内に第1回期日を原則として指定すると規則に書かれています。労働審判は話し合いでの解決を目的として制度で,期日は原則3回以内になります。
労働審判の基本的な流れについて記載します。
第1回の期日において双方の主張を出し尽くして,第1回の場で審判官,審判員から色々な質問をされて,それに答えることによって労働審判委員会が心証(会社が有利か,労働者側が有利か)を取ります。
その心証をベースに,第2回,第3回は話合いでの解決を目指していくことになります(事案によっては,第1回以降に,追加の証拠や主張書面を出すということもあります。)。
労働審判は,第1回期日が非常に大事になってきます。第1回期日までに,会社の主張を十分言い尽くして,説得をします。それができないと裁判官の心証は労働者側に寄ることになります。その場合,会社が負けという心証のもと,会社が支払う金額も高くなります(解雇事件の場合,労働審判の解決の水準は,給料の6か月分を境にして,使用者側が有利であれば6か月からどんどん下がり,使用者が不利であれば6か月からどんどん上がると一般的に言われています。)。
労働審判では第1回で説得できないと,使用者側としてはどんどん不利になってしまいます。
他方で,労働審判の場合には,第1回の期日までに答弁書の中で会社の主張を書かないと行けない中,申立てから40日以内に期日が設定されます。40日とか30日は,あっという間に経ってしまいます。そのため,顧問弁護士がいない企業としては,非常に困ったことになりがちです。顧問の社労士の先生に弁護士を紹介してもらったりすることができればまだ良いですが,社労士の先生もいない場合には,弁護士が見つからず,探しているうちにどんどん時間が経ってしまい,どんどん引き受けてくれる弁護士がいないという事になりかねません。
労働審判では,第1回期日までに主張を尽くすことも大事ですが,第1回期日の場で,審判官,審判員から質問された事項に対して,どう答えるかという準備も大切です。労働審判の第1回は,大体1時間~1時間半ぐらいあり,その中でいろいろな質問をされ,その回答で,労働審判委員会は心証を形成していきます。
労働審判の場合,第1回期日に出頭できないと,使用者側が不利になります(労働者側は,申し立てた際に,裁判所と期日の調整を行っているので,第1回は労働者側は確実に出席できる日時となっています。)。
場合によっては,顧問弁護士あるいは依頼したかった弁護士が,その日出張等でどうしても空いていないということもあり得ます。
その場合どうするかというお話ですが,裁判所は申立てがあったときから期日の3~4週間ぐらい前までは一応日程の変更を検討してくれます(ただし,裁判所によって運用は異なります。)。
労働審判の場合,労働審判委員会は,裁判官と専門家が2人(使用者側出身の専門家と労働者側出身の専門家)の3人で構成されます。労働審判委員会は,労働審判申立てから一定期間経ったタイミングで,裁判所から選任されます。その選任をされた後に日程の変更をお願いしたとしても,認めてもらえないことが多いと思われます。
なお,労働審判の場合には,労働審判手続きの進行に関する照会書というものも基本的についてきます。これは,労働審判を,手続きを迎えるに当たって会社側のスタンスを事前に教えて下さい,というものです。
照会書の中には,「調停(話合いによる解決)について」という項目が記載されています(裁判所によって異なります)。
この項目については,事案によりますが,「基本的に調停での解決は望まないけど,場合によってはあり得る」というスタンスで,「和解は今は考えていない」という形で回答しておくことをオススメしています。
あくまで今は考えていないが,将来的にはあり得るかもしれないということで含みを残しておき,労働審判の内容等を見ながら判断されていかれるとよいかと思います。
3 仮処分
続いて,労働者から仮処分を申し立てられた場合の対応についてお話します。
仮処分とは,例えば,ある従業員が会社から解雇された事案で,その従業員が当該会社から給料をもらって生活していたという状況で,解雇をされてしまうと,その解雇が有効か無効かは置いておいて,生活ができなくなってしまうと。本案訴訟をやっていると,1年,1年半かかってしまい,その間の生活が立ち行かなくなるという場合に,仮処分という,仮に結論を早めに出してくれという手続を労働者が取ることがあります。これがいわゆる仮処分で,大体目安として3か月程度で,裁判所が結論を出します。
仮処分の審理でやる内容は,本案訴訟で1年から1年半かけてやる内容と同じ事をやります。すなわち,本案訴訟を起こされた場合と同様の対応を会社の方でもやる必要があります。
そのため,仮処分を申し立てられると,本当に緊急で,会社の方でも夜な夜な打合せをして書類を作るといった対応をすることもあります。
仮処分の場合,裁判所から書類が届いて1回目の期日までの間が,約1週間から10日であり,本当に時間がありません。また,1回目以降の期日も,大体10日から2週間に1回のペースで期日が入ります。
書類を作っては出し,裁判所に行く,ということの繰り返しです。
仮処分の場合も,すぐに連絡すれば,1回目の期日の変更には応じてもらえることが多いですが,仮処分なので大幅には延びません。
仮処分に負けてしまった場合,暫定的な結論が仮処分という形で決定されます。会社が負けた場合,会社は,働いていないのに毎月一定額の給与を支払わないといけなくなるという結論を招くことになります。
本案訴訟を見据えた場合でも,ここで勝つか負けるかというのは,今後の戦況に大きく影響します。
仮処分では,本来,本案訴訟で1年とか1年半かけてやる内容を3か月でやることになりますので,例えば,上述の解雇した事案では,解雇した理由であるとか,そういった部分について,裏付ける証拠を添えたうえで,主張しなければならなくなります。
また,担当者や上司の方の陳述書を提出しなければならない(提出するべき)というところも大きく影響します。
例えば,解雇した理由について,ある従業員のパフォーマンスが悪い,指導したけど直らない,ということがあった場合に,そのことだけを書けばよいのではなく,そもそも,問題の従業員がどのような仕事をしていたのか,というところまで細かく具体的に書かなければなりません。
要するに,仮処分が申し立てられた場合,初期対応として,まず弁護士を早く選ぶこと,事実の整理もしておくこと,証拠となる書類をそろえておくこと等が非常に重要になってきます。
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